救急医療センター

救急最新情報

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 当院は約40年前より、救命救急をはじめとした急性期医療を行ってまいりました。動物の救命救急学は、人と同様にその必要性が叫ばれるようになり、1978年にアメリカを主体として「獣医救急クリティカルケア学会」が設立され、より専門的な分野が確立されていきました。

 当院もメンバーになり、以後、世界の救命救急学を学び実践する体制をとっております。日本国内でもその重要性は理解されているものの、その知識や技術、経験などから、現在においてもクリティカルケア(365日24時間、重症かつ集中治療)を実際に行うことができる病院は多くはありません。

 数多くの救急重症動物たちが救命救急学の進歩により、助けられてきたことは言うまでもありません。それは、救急専門医たちが日々の診療の中での経験やリサーチ、研究を積み重ねてきた過程があるからだと思います。そして現在においても、それらを基礎に救命率を上げるための新たな治療方法や技術が考えられ、動物救急医療の現場に取り入れられております。

・心肺蘇生の役割

 救急医療とはまさに“医療の原点”ですが、中でも極限の救急状態とは心肺蘇生が必要な場合です。“心肺蘇生”とは“呼吸や心臓が停止、またはそれに近い状態にある傷病者に対し心肺機能を補助する為に行う救命救急処置”。つまり、具体的には心臓マッサージや人工呼吸等の事です。

 医学の進歩とともに、心肺蘇生の方法も日々変化しており、現在では最も大切なのは胸部の圧迫であると言われています。胸部を肋骨越しに胸郭の1/3〜1/2の深さまで圧迫する事により心臓も圧迫されて心臓内の血液が全身に駆出(送り出され)、脳や心臓自身に酸素供給されます。また、圧迫と圧迫の間に、胸郭をしっかり再拡張させる事で全身から心臓へ血液が還流(戻ってくる)のを促します。

 方法や考え方は動物においても人間と同様ですが、動物の場合は胸郭の形状が様々であるため工夫が必要となります。例えば胸郭が平坦なアフガンハウンドのような犬や小型犬・猫の場合には横臥位(横に寝かせた状態)で心臓周囲を横から両手または指で圧迫しますが、ブルドックのような胸郭が円筒状の大型犬では仰臥位(仰向け)にし、上から圧迫する事が有効です。

 心肺蘇生の成功の鍵はとにかく素早く診断し、1秒でも早く処置を開始する事です。処置の開始が早ければ早いほど、心拍が回復する可能性が高まります。しかし心拍の回復がイコール蘇生ではありません。残念ながら一度心拍の回復を認めても、再度停止してしまったり、多臓器不全や無酸素性脳障害等を起こし、最終的に死亡してしまう場合が多く、心肺蘇生後に通常の生活に戻れる可能性は稀であると言わざるを得ません。これも人間と同様です。心肺蘇生の目標は心拍の回復ではなく、“退院”なのです。

・眼の救急疾患

 犬や猫をはじめ獣医領域の眼科では、視力障害に関わる救急疾患は非常に多く、診断・適切な治療を早期に行えるかが、その動物の視覚を守れるかどうかの境界になります。犬・猫は視覚に頼らない動物だとも言われていますが、失明すると散歩が困難になったり、物にぶつかる為に臆病になったりと生活の質が低下してしまいます。

 代表的な眼の救急疾患には、緑内障が挙がります。緑内障とは、眼の内圧(眼圧)が病的に上昇し、視覚に変調をきたした状態を言います。視神経が障害されるだけでなく、かなりの痛みを伴い、症状としては羞明や流涙、充血が見られます。好発犬種はバセットハウンド、コッカースパニエル、サモエド、柴犬、シベリアンハスキーです。眼圧を低下させる治療を行っていきますが、障害された視神経は元通りに治ることはないため、眼圧が高い状態がつづくと数時間から数日のうちにその機能をほとんど失うことになります。

 またケンカや異物、熱湯によるヤケド、薬品での損傷などが原因による角膜疾患や、短頭種(パグ、フレンチブルドッグ、シーズー等)に多いのですが、頭部への外傷を受けたことによる眼球突出なども救急で多く見られます。

猫では高血圧症が原因で起こる網膜出血、網膜剥離が救急で多くみられるのですが、その背景には腎疾患や甲状腺機能亢進症が潜んでいることがあり、眼だけではなく全身状態の評価も大切なのです。

 ご自宅で充血や、羞明、眼脂、瞳の大きさの左右での異なりなど、いつもと違う様子がみられたのであれば、家族である動物達の視力を守る為、早期にご来院ください。

・脳神経疾患の救急

 脳は障害されると再生しにくい臓器であり、救急性の高い臓器です。

 脳に異常を起こす疾患は、脳そのものに異常がある場合(脳炎、脳腫瘍、脳出血など)もありますが、全身状態の悪化から脳に異常を起こす場合もあります。例えば腎・肝臓障害や熱中症、感染症や中毒、幼い仔に多い低血糖なども脳障害を引き起こします。

 脳に異常をきたすとふらつきや、眼のゆれ、頭の傾きや、旋回運動などの症状がでてきたり、意識状態も正常ではなくなります。中でも多いのは痙攣発作症状で、特に危険な状態は痙攣発作が続く痙攣重積状態です。

 痙攣重積状態は、発作が5分以上続くか、または短い発作でも反復し、その間の意識の回復のないものと定義されます。痙攣が続く状態であると、呼吸障害や循環器障害、高体温などにより脳障害が起こり、生命に危険が及ぶ可能性が高まります。すぐにでも抗痙攣薬や点滴輸液療法、酸素療法などによる治療を開始しなければいけない状態です。

 普段と異なる、思いがけない症状が脳神経疾患である場合もありますので、異常を感じたら直ちにご相談、ご来院下さい。